はじめに
南米大陸最大の国として大陸の約50%を占め、民族音楽サンバで有名なブラジル。赤道直下のアマゾン河は、南米アンデス山脈に源を発する流域面積705万km2 の世界一の大河である。そしてマラニョン川を源流とすると全長6300kmにもおよぶ。その流域には、多様な植物が生い茂る熱帯雨林が広がっている。ブラジルの気候は北部と南部ではまったく異なる。また、雨季と乾季があり地域によってもその期間に違いがみられる。さらに、アマゾン河流域に限って言えば、高温多湿で一日中気温が高く、毎日のように雨が降る。一年間に4000mm以上降ることもある。アマゾン河口のベレン市では、雨期ともなると大型バケツの水をそのまま一気に頭からかぶった状態が数分間続く事も度々あり、その激しい雨により、一瞬にして市内全体が川のようになる。このような過酷な生活環境では、生物間での生存競争も激しい。従って、競争に打勝った生物種は強く、たくましく生き抜いている。アマゾンの魅力は、まさに太陽と雨の恵み、そして豊かな大地が生み出した生命力がみなぎっているところにある。アマゾンで産出される薬用植物には、有効成分などが未詳のものが多い。ブラジル国内流通している生薬の基源植物にはアマゾン産のものも多く見られる。そして、それら未知の植物がアマゾンには山ほど眠っているといっても過言ではない。
1.調査地概要
私達は、1993年から1996年の間、ブラジル・アマゾン河口の最大都市ベレン市を拠点に、上流の都市アマゾナス州マナウス市までの熱帯地域において薬用植物の調査を行った。ブラジル連邦共和国パラ州の州都ベレンには、百万人を超える人々が住み、アマゾン河流域の産物の大きな積出港がある。アマゾン河流域には豊富な生物資源があり、多くの薬用植物を産する。それら薬用植物の商取引と流通の拠点になるのがベレンである。ベレンからアマゾン河のほぼ中央に位置する国際商業都市マナウスにある西部アマゾン農林研究センターEMBRAPA-CPAA 旧名:西部アマゾン農畜産実験調査研究所(IPEAOc) に至るまで、途中日系ブラジル人の方々が多く住む町サンタレンを通り、そして小型船に乗り、大小さまざまな都市に寄りながら植物資源のインベントリー調査を続けた。私達のアマゾン訪問のきっかけに、植物研究に古い歴史を持つブラジルでは農牧研究公社東部アマゾン農林研究センター(EMBRAPA-CPATU)- 旧名:北伯農畜産実験調査研究所(IPEAN)と日本の国際協力事業団JICAによる日伯間の国際プロジェクトとして、アマゾン農業研究協力計画プロジェクトがあった。そして、この私達のプロジェクトは、「ブラジル湿潤熱帯地域における薬用植物の採集,繁殖と評価に関する研究」という一つの課題に取り組むことから始まった。本稿では、著者らの上記の調査による経験から、日本では紹介されたことの少ないアマゾン産薬用植物やその利用方法などについて報告する。
2. アマゾン河下流域の熱帯雨林と植物
アマゾン河流域には、600万km2 という広大な熱帯雨林が広がっており、森林の特徴から大きく2種類に分けることができる。その一つがテラフィルメで、洪水でも水に浸かることのない乾いた大地に広がる林であり、アマゾン全体の98%を占めている。もう一つは、雨期に水没してしまうバルゼアと呼ばれる林(Fig. 4)と、一年中水につかっているイガッポ林である。テラフィルメ林の土壌は、栄養分に乏しくやせており、木々は、細い根を浅く地表に張りめぐらせ、栄養分を吸収し易いようにしている。また、バルゼア林とイガッポ林については低木が多く、テラフィルメ林のように密生してなく地表まで光がとどき下草がよく生える。また、アマゾンの熱帯雨林には巨大な木(Fig. 5)が多く、平均で46-55mの高さになる。マナウスの科学技術省国立アマゾン研究所(INPA Manaus)標本展示館内正面入口には、世界最大のタデ科植物の葉が壁に展示されている。高さ4mの館の天井に届きそうなこの葉身は、それは巨大なものであった。国立アマゾン研究所での記憶から、アマゾンには胸高直径約4mで高さ90mの巨木も見られることも不思議ではないことがわかった。アマゾン河流域の熱帯雨林は、およそ 6500万年前に生まれたと言われており、北米や欧州の森林の1.1万年と比べても大変古い時代出来上がっていた。従って、自然の豊かなアマゾンの森林では、長い年月をかけて植物の種の変化が盛んに行われ、その結果アマゾン地域には約 44,800種もの高等植物が分布するようになった。そして、この種数はヒマラヤに分布する高等植物約7,000種と比べても遙かに多い。また、ブラジル特産の熱帯薬用果樹はアマゾン河下流域に多く見られ、世界の国々へ輸出されている。例えば、ムクロジ科のガラナ( Fig. 6)、サガリバナ科のブラジルナッツ( Fig. 7)、ヤシ科のモモヤシ( Fig. 8)やアサイヤシ( Fig. 9)、カカオの仲間のクプアス( Fig. 10)、そして薬用植物の種類も多く、8,000種以上が伝統医に用いられていると言われている。咳止めや鎮痛剤などをはじめ、世界の医薬品の約25%が、ここアマゾン河流域の植物から見いだされたものである。そして、現在でもブラジル人研究者らが中心となり調査研究が盛んに進められている。
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Abstract
We investigated Brazilian medicinal herbs found in local markets in the lower Amazon River from 1993 to 1996, surveyed habitat and environmental condition to study plant ecology, and took photographs of these plants. We acquired traditional knowledge on usage, effect, local name, and plant lore from the healer and traditional dealer in Ver-o- Peso, a fresh market near a port of Belem. We concluded that local healers use more than 8,000 medicinal herbs consisting of about 16,000 different species of medicinal plants in Amazon area (Brazil, Peru, Ecuador, Colombia). Most of the medicinal herbs were collected in neighboring areas as a result of our having investigated natural medicines in the herbal markets of Belem, Santarem, Manaus and elsewhere. Most are derived from Amazonian products or Brazilian native plants. Although medicinal herbs were small in quantity, use of those introduced from Europe, Africa, and Asia through the course of Brazilian history have become widespread in this country. Additional study is required to ascertain the effect of these natural medicines. Cultivated herbs such as Jaborandi (Pilocarpus microphillus, Rutaceae) and Ipeca (Cephaelis ipecacuanha, Rubiaceae) are part of a world market and the conservation of natural medicinal resources is an urgent subject.
Key word: Amazon, Brazilian medicinal herb, healer
Survey of wildflowers in Amazon (2)
Utilization of Brazilian medicinal plants lower Amazon River
WATANABE Takashi 1) and TAKANO Akihito 2), Medicinal Plant Garden, School of Pharmaceutical Sciences, Kitasato University 1) and Medicinal Plant Garden, Showa Pharmaceutical University 2)
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Fig.4
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Fig.10
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