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特集「イスラム文化の香りとハーブ」 『"イスラムの国とハーブ" -パキスタンについて-』
 

はじめに
 パキスタンはインド亜大陸の北西部に位置し、世界4大文明の一つとして知られるインダス文明の発祥地である。また、中央アジアとインドを結ぶ交通の要所として、古くから様々な民族がこの地を経由して移動、交易を行ってきた。
 パキスタンの国土は、アフガニスタン、イラン、インドなどの国と接し、中近東地域と南アジア地域を結ぶ重要な位置(北緯23.3〜36.45度、東経61〜75.3度)を占めており南北に細長く、その面積は約80万km2であり、ヒマラヤから発したインダス河が国土の中央を縦断し流れている。パキスタン北部にはヒマラヤ山脈の8,000m級の山々が連なるが、中部にはインダス河がもたらす肥沃なパンジャブ平原が広がっている。更に、南西部は広大な砂漠地帯となっており、変化に富んだ地形を持っている。行政区分で表すとパンジャブ州、シンド州、バルチスタン州、北西辺境州の4つの州に分けれれている。主要都市にはシンド州州都で商業港都市であるカラチ、ムガール王朝から続く文化都市でパンジャブ州州都のラホール、北西辺境州内には三蔵法師がガンダーラに関して記述した地域にある州都ペシャワールがあり、カイバル峠からアフガニスタン国境は指呼の間にある。1947年インドからのパキスタン独立に際し、英国の停戦表明により北部地域の帰属が暫定的に決まった。その後中国との合同事業により20年の歳月を経て北部山岳地帯を縫うようにして走るカラコルム・ハイウエイが1978年に完成した。パキスタン政府の悲願ともいえるこのハイウエイは、中国国境にあるクンジャラーブ峠(標高4,700m)に至る北と南をつなぐ幹線道路で、軍事的にも重要な道である。そのハイウエイの途中にはフンザやギルギットといった町が点在し、そこでは少数民族が独特の伝統文化を継承しながら、自然と共に暮らしている。また、パキスタンの人口は約1.3億人(1998年現在)に達しており、現在でも増え続けている。多くの人口は、首都イスラマバードを中心にパンジャブ平原に集中し、農業依存型の生活体系の中で人々の多くが農業を営んでいる。やはりこの国は農業立国と言っても過言ではない。しかしながら、自然からの採集のみに頼っているパキスタンにとって薬用ハーブの資源性については未知の部分が多く農産物としての地位が未だに確立していない。

イスラマバード近郊の薬種商における薬用ハーブ類の調査
 単にハーブといっても観賞用から香料などに至るまでカテゴリーの幅が広く誤解し易いため、ここでは人間の健康に深く関わってきたハーブ類を薬用ハーブとして表す。何世紀もの間パキスタンに住む人たちは、薬用ハーブを伝統文化の中で発展させてきた。既に我々はパキスタンにおいて、高等植物全6,000種のうち11.7%にあたる約700種の薬用ハーブが国内市場で流通していることを確認している。そして、そこでの薬用ハーブの由来を調べてみるとアラビア系、アーユルヴェーダ系、チベット系の順に使用されている種類が多く、パキスタンにおける民族分布と深く関わっているようだ。さらに北部山岳地域にはチベット系及びイスラム系、南の低地にはイスラム系の少数民族が暮らしている。こうした多民族国家では、「死」や「病」に対しても民族により少しづつ異なった考えを持ち、薬用ハーブの発見及びその発達史においては、諸民族の伝統的知識の違いが大きく関わっている。
 そして近年、我々は人口約20万人の首都イスラマバードの薬種商(Fig. 1)を中心に、人口約79万人の都市ラワルピンディの薬種商(Fig. 2)と合わせ、アラビア(ムスリム)薬用ハーブとアーユルヴェーダ(インド)薬用ハーブについて伝統的な知識情報の集積を目的に調査を行ってきた。そして、2000年10月には先の両市場の薬種商において、香料植物を含めおよそ250種の薬用ハーブ類を収集し、伝統的知識情報を整理し、データベース化を行った。

●購読希望の方は
美と健康を科学するフレグランスジャーナル社FRAGRANCE JOURNAL LTD.から発刊されているアロマテラピーとハーブ療法の香りの学際的専門誌・隔月刊(奇数月の25日)「Aromatopia 第48号特集 イスラム文化の香りとハーブ」に収載されています。
http://www.fragrance-j.co.jp/books/info/aroma/spe-topia.html

MEDICINAL HERBS OF PAKISTAN IN ISLAMIC COUNTRIES
WATANABE Takashi 1) and Zabta Khan Shinwari 2)
Medicinal Plant Garden, School of Pharmaceutical Sciences, Kitasato University 1)
WWF-Pakistan, Islamabad 2)


Fig.1「イスラマバードの薬種商アッタールAttarを案内する共同研究者」

Fig.2「ラワルピンディの伝統医アニーAnny(Ann-ul-hag Shaheen氏)」

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