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『ネパール・ヒマラヤ花紀行(4) - ロールワリン谷の薬用植物(後編)』
 
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はじめに
 遠い昔にチベット族らは、チベット高原から神々の山ヒマラヤに移ってきて、後のシェルパ族となった。彼らが住むこの神秘的な山の奥に薬草が咲き乱れる花の谷があることは、ネパール人の同僚からいつも聞かされていた。ネパール薬用植物局に赴任して2年目に幸運なことに憧れていたロールワリン谷Rolwaling valleyを訪れる機会を得ることが出来た。そして、自分が予想していたより多くの花が咲いていたことに当時の私は大変な感銘を受けた。本稿では前編に引続き、今まで殆ど紹介されたことの無いロールワリン谷の素顔を紹介する。文明から遠く離れたヒマラヤの山奥で営まれる素朴な暮しの中で培われたシェルパ族の生活様式を知って戴きたい。そして、彼らの精神世界がこの地の伝統的な生活様式と大きく関わってきたのである。

ロールワリン谷の植物解説
スキサンドラ・グランディフロラSchisandra grandiflora (Wall.) Hook. F. & Thomas.(マツブサ科):Fig. 3
 マツブサ科は、マツブサ属及びサネカズラ属の2属50種からなるモクレン科から分離した小さな科である。ネパール・ヒマラヤのマツブサ属Schisandra には3種が知られており、本種は標高2100m〜3300mのやや標高の高い地域に分布する。樹林帯斜面の低木の茂みに普通に生える木本性のつる植物で高さ2m程までになる。雄花の花被片(花弁)は約9枚で円形、雄しべは40本でほぼ球形に集まった様になる。花は、ピンクから白色で仄かに甘い香りがする。雌花の花弁は、雄花より大型で色に幅があり変化に富む。花期は5〜6月である(図6)。私達が訪れた頃は丁度クリーム色の花を付けていた。9月〜10月にかけて、その年の新しい枝の葉腋につけた赤い実を収穫し乾燥した後、果軸をはずし調製したものが生薬"添蔵五味子(テンゾウゴミシ)"である。乾燥させた種子にはリグナン類を多く含みロールワリンでは鎮吐や消化促進(胃カタル、消化不良)などのために用いている。

エンキアンタス・デフレクスEnkianthus deflexus (Griff.) Schneide(ツツジ科):Fig. 4
 ネパールには、この1種のみが自生する。ネパールでは標高2500〜3300mの比較的湿潤な樹林帯の低木林に生育し、ヒマラヤ東部のブータン、アッサム、ミャンマーまで分布している。日本のサラサドウダンE. campanulatus の変種ベニサラサドウダンvar. rubicundus に似ており花冠が赤くなり、園芸植物としても注目できる7)。中国では樹高4-10mになるE. chinensisの花を乾燥させ、中国吊鐘花と称し月経不順や血止(鼻血、血便)に用いている8)。但し、ツツジ科の植物には毒を有するものが多く、花以外の部位の利用に関しては最細の注意を要する。

アリストロキア・グリフィティAristolochia griffithii Hook. f. et Thoms. ex Duchartre (ウマノスズクサ科): Fig. 5
 ウマノスズクサ科には、茎が木化し、蔓になって他の植物に巻きつくなどして成長するものや、草本性で直立したり、茎が地面を這うものもあり世界に6属600種以上が知られている。そのうちウマノスズクサ属の属名であるアリストロキアとは、ギリシャ語で「アリストス(aristos=最良の)」+「ロキア(lochia=出産)」を意味し、古くから出産の際の痛みを和らげる鎮けい剤として使用されていたことにちなむ。また、葉や茎には独特な香りがある。外部からの刺激を受けると、この香りの基である精油成分4) を空中に放す。

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美と健康を科学するフレグランスジャーナル社FRAGRANCE JOURNAL LTD.から発刊されているアロマの機能性(生理・心理的作用)と効用の学際的専門誌・季刊(2,5,8,11月) 「AROMA RESEARCH 第9号」に収載されています。
http://www.fragrance-j.co.jp/books/info/aroma/aro-research2.html

Abstract
We investigated medicinal herbs in Rolwaling-Himalayas of Central Nepal for a month from April to May in 1985. This survey was achieved with a joint team between 3 Nepali stuffs of Department of Medicinal Plant in Kathmandu and me as a member of JOCV(Japan Overseas Cooperation Volunteers) Kathmandu Office.
We surveyed the habitats, recorded indigenous knowledge for traditional medicinal plants, and took photographs of these plants and plant habits from Simigaon(1950m) to Tesi Laptsa (5705m) through Na Gaon(4183m). And we heard several information as usage, effect, local name from the healer of Sherpa tribe. They live on Tibetan culture in this area.
As a result, about 30 medicinal plants consisting of 300 different species were occurred by our members.
We kept photographs with Photo CDs including their 300 photos in the Medicinal Plant Garden of Kitasato University, Japan.
This issue is the latter part of Himalayan Medicinal Herbs in Rolwaling valley of Central Nepal.

Survey of Wildflowers in the Nepal Himalayas (5)
Himalayan medicinal herbs in Rolwaling valley of Central Nepal (the latter part)

Takashi Watanabe 1) and Kuber Jung Malla 2)
Medicinal Plant Garden, School of Pharmaceutical Sciences, Kitasato University 1)
Royal Botanical Garden, Department of Plant Resources, Godawari, Lalitpur, Nepal 2)


Fig.2「樹林の合間からガウリサンカールの頂が顔を覗かせる。」

Fig.3「スキサンドラ・グランディフロラ(Schisandra grandiflora)」の花

Fig.4「エンキアンタス・デフレクス(Enkianthus deflexus)」の花

Fig.5「アリストロキア・グリフィティ(Aristolochia griffithii)」の花

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