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『パキスタン・ヒマラヤ花紀行(1) -パキスタンの香料植物-』
 
●English

はじめに
パキスタンは変化に富んだ気候、生態的そして地形的に特徴ある環境をもった国であり、この国の中で地球上のあらゆる自然環境がみられる。植物相についても多様性があり魅力的である。カシミールを含むパキスタンに自生する約6,000種の高等植物のうちその多くは、パキスタン北部そして北西部に分布しているおり、そこは、3つの大きな山脈(ヒンズークシ、カラコルム、ヒマラヤ)が合流する地域でもある(Fig. 1 )。
今回我々が行ったイスラマバードでの生薬市場調査では、1週間という短期間にも関わらず香料植物を含めおよそ250種の薬用植物を確認することができた。さらに、我々はイスラマバード近郊のナティアガリ谷(Fig. 2)に生育する薬用植物についても調査したが、その数を合わせてもパキスタン全土に生育する約700種の薬用植物の50%にも満たないのである。これら数字が意味することは、まだ知られていない薬用植物資源を含め詳細な民族植物学的調査を継続して行う必要があるということである。
パキスタンの植物相は植物地理学的な特徴があり、また植物のほとんどが、薬として経済的な価値があることが昔から知られていた。農村地帯に住む人々は、過去数百年もの間身近にある貴重な植物を日常的に利用しており、彼らの伝統文化と密接な関わりがある。現在、こうした幾つかの貴重な植物から生理活性成分が見つかり、化粧品や医薬品のための研究が盛んに行われている。実際には、薬のもつ伝承的あるいは東洋的な考えは、植物資源の正しい使い方の知識のうえに成り立っているといえよう。しかし、実際にはこうした伝承的知識や伝統文化は地方の過疎化とともに次の世代に引継がれることなく失われつつある。

調査地概要
世界の屋根ヒマラヤ、カラコルム山脈を削ったインダス川は、下流に肥沃な沖積平野をつくり、そこには古代より人類が住み着いていた。4000年前には都市が発達し、四大大河文明の一つインダス文明が栄えた。その後この土地には波瀾の歴史が刻まれる。アーリア人の侵入、仏教の伝来とガンダーラ仏教美術の発祥(現在の地名ペシャワール)、11世紀にイスラム教徒が移住、16世紀にはムガール帝国の興隆、英国の植民地化、そして1947年にパキスタン・イスラム共和国Islamic Republic of Pakistanはインドから分離独立し現在に至っている。しかし、カシミール地方の帰属問題は未解決であるし、1998年の地下核実験の実施など、複雑な問題を多数抱えており、国際的にも微妙な立場にある。
パキスタンは、インド亜大陸の北西部に位置し、国土の東半分はインダス川が貫通している。西半分は山地帯で、北部はヒマラヤ山脈の西の端、その更に北にカラコルム山脈、北西はヒンズ−クシ山脈で、インダス川の沖積平野を弧状にとり囲む。パキスタンの北端フンザ地方はイギリスの人類学者が「世界で最も健康な民」が住んでいると紹介した桃源郷である。インダス川中流のパンジャブ地方は「五河」の意味で、五つの河川を結ぶ人口灌漑が進んでおり、綿花や小麦の生産が盛んな穀倉地帯である。
 パキスタンは、北緯24度から37度の位置にあり、日本でいうと西表島から北関東の緯度にあたる。日本では亜熱帯から温帯気候だが、パキスタンではモンスーンがインダス川流域に達するまでに湿気を失い、乾燥気候となる。詳しくは3つの地域に分けられ、第一が平野部の乾燥したステップ気候で夏季に降雨がある。第二に南西部、砂漠の山岳地帯(バルチスタン地方)で大陸性乾燥気候。第三に北部山脈地帯で、ここも乾燥しているがわずかに冬季に降雨が見られる。

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美と健康を科学するフレグランスジャーナル社FRAGRANCE JOURNAL LTD.から発刊されているアロマの機能性(生理・心理的作用)と効用の学際的専門誌・季刊(2,5,8,11月) 「AROMA RESEARCH 第6号」に収載されています。
http://www.fragrance-j.co.jp/books/info/aroma/aro-research2.html

Abstract
Pakistan is a fairly large country endowed with a variety of climates, ecolgical zones and topographical regions, and almost every conceivable type of natural habitats are met within our country. The flora is, likewise, extremely varied and diverse, and highly fascinating. Of the nearly six thousand species of flowering plants reported to be occuring in Pakistan and Kashmir, a very large number is to be found in the Northern and North-Western parts of Pakistan where three big mountain ranges (Hindukush, Karakorum and Himalayas) meet.
Most of these plants are known to poessess medicinal and economic values or properties and their uses have been known to the local people in the rural areas for the past several hundred years. Some of these plants are now commercially exploited for the extraction of various types of active ingredients.As a matter of fact, the indigenous or Eastern system of medicine is entirely based on the properties of these plants. But the reality is that even less amount of indigenous knowledge will be known to our next generation.Indigenous knowledge is in danger of being lost.
There are several plants which are aromatic and are being used in cooking, perfumary and bakeries. In the present study we have prepared the existing and known aromatic plants. The part of the plant used; the purpose and its range of distribution is laso shown. In the owrld about 75 species of spices are grown. We have recommended important wild aromatic plants that can be adopted as minor cash crop because of their market value.

Survey of Wildflowers in the Pakistan Himalayas (1)
CONSERVATION OF AROMATIC PLANTS OF PAKISTAN

WATANABE Takashi 1), WATANABE Haruko 2), S. Shahinshah Gilani3) ,
Ijaz K. Wazir 4) and Zabta Khan Shinwari 3, 5))

Medicinal Plant Garden, School of Pharmaceutical Sciences, Kitasato University 1)
Parks and Greenery Section, Itabashi city Office 2)
National Herbarium, National Agricultual Research Centre, Islamabad-Pakistan 3)
Govt. College Hangu, NWFP-Pakistan 4)
WWF- Pakistan, Peshawar, Pakistan 5)


Fig.1「調査地域概念図」


Fig.2 ナティアガリ保護地域の森林

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