1.プロジェクトの概要

プロジェクト代表の渡邊は、トヨタ・グローバル500賞受賞を機に、「中央・西ヒマラヤの地域社会において薬用植物資源を持続的に利用するための産業化プロジェクト」と題し、ネパールのムスタン王国ロー・モンタン、パキスタンの東北部国境及び北部辺境州山岳地域において現地NGOとの覚書MOUに沿って利益還元を目的に現地立脚型の薬草モデル事業を展開している。この事業では、環境を保全する事業と産業化を振興する事業に対し、山岳地域の活性化という共通のキーワードが絡み合って成り立っている。最終的にはプロジェクトサイトの生活改善に繋がっていくことを目標にしている。

2.ロー・モンタン薬用植物教育用展示・栽培試験農場

ロー・モンタンへは、ネパール第二の都市ポカラから小型機で40分のジョムソンより80Kmの距離だが、急峻な地形で自動車道路がないため徒歩または馬で4〜5日を要する。緯度としては奄美大島と同程度だが、雨量が少なく、乾燥と強風の厳しい気候である。この地域は、ネパール国内でもチベット色の濃いエリアであり、生活にチベット仏教が深く浸透している。医療に関しても、チベット医術を施す伝統医療が健在である。産業面では、農業は自給できる程の収量がなく、古くからチベットとインド方面への塩の交易で生活してきた。近年中国側より自動車道路が整備され、ヤクによる交易の役割が小さくなり、若年層はカトマンドゥなどの都市に出稼ぎに行くようになってきた。当農場運営を担当するチベット南部占星医学総合診療所のテンジン・ビスタ医師を中心に自家製剤原料植物の自給栽培と系統保存を目的に2002年3月よりプロジェクトがスタートした。

3.ロー・モンタン薬草ミュージアム

3-1.アッパー・ムスタン薬草展示パネル

インド・ダラムサラにあるチベット医学・暦法学研究所(メンツィ・カン)のダライラマ法王の主治医であるダワ博士(Dr. Dawa; Materia Medica Department, Men-Tsee-Khang, Tibetan Medical & Astrological Institute, Dharamsala, India)にご足労戴き、北里大学薬学部附属薬用植物園管理棟1F研究室内において、2001年〜2002年にかけ西ネパール・アッパームスタン地域で採集した全ての標本をプロジェクトリーダーの渡邊と共に点検し、学名、チベット薬物名、ローカル名(Lo Name)そして効能に関する記述の確認と訂正作業を行った。その後、インド・ダラムサラに帰国し、2か月後ダワ医師によりさく葉標本の記載情報に関する最終訂正がなされ主作業を完了したため、このホームページに成果の一部を掲載するに至った。ロー・モンタンとは「南チベットの薬草または祈りの原」を意味し、現在ムスタン王国の首都である。

3-2.薬草ミュージアム完成までの道程

西ネパール・ムスタン王国の首都ロ−・モンタンに薬草ミュージアムを建設するためにチベット南部医学・暦法学総合診療所・伝統薬草診療&附属学校(Lo-Kunphen Men-Tsee Khang, Traditional Herbal Medicine Clinic and School, Lo Monthang, Mustang, Nepal)の伝統医Amchi Gyatso Bista代表に依頼し、2002年より建築資材のロー・モンタン(標高3,800 m)へ荷揚げ準備を済ませた。そして、2003年の初春Amchi Gyatso Bista氏を研修のため日本に招聘し、北里大学薬学部附属薬用植物園での設計打合せを再度行った。その後、高知県立牧野植物園を訪問し、本プロジェクトの共同研究者である小山鉄夫園長へのプロジェクトの進行状況を報告すると共に、小山園長から薬草ミュージアムの設計について同園の里見学芸員をご紹介頂いた。設計図面の再検討とアドバイスの結果、里見学芸員のご協力により2週間後に完成図面が提出された。同年5月中旬、帰国後直ちに弟のAmchi Tenzin Bista氏とその門下生らと協力し同年9月上旬には1F部分の建設を完了した(次項の資料参照)。現在5月より建設再開し、2F部分の建設と内装、そして内部設置予定の建造物(標本庫、博物標本等制作用作業台、専門書本棚、会議スタッフルーム、ミュージアムショップ)の2004年10月の完成を目指している。

4.薬草モデル事業について

 ヒマラヤ地域に於いて付加価値の高い薬用・香料植物を選出し、企業や民間団体と協力し、市場への流通を視野に入れ汎用自家製剤としても利用できるようLOCとの委託栽培を促進している。専門家の派遣により栽培技術を指導することで自然からの搾取に頼らない方策を講じる。また、未知の植物資源から得られた薬効活性成分から植物の産業化を進め、LOCに所属する農民へ篤農家としてNGOと契約した内容に沿って現金収入の道をもうける。従って、プロジェクト責任者らは、植物資源の取引に関わる流通システムなど現地に昔からある複雑な機構を理解し、薬草は世界市場がターゲットとなっていることを含めLOCに対しは的確な情報を流し、正しく導いて行く必要がある。最近になってパキスタンでは現地製薬会社が直接LOCへ薬草栽培を委託し、買い上げるといった好ましい状況も産まれつつある。しかし、ここで資源と所有権の保護を強化しただけの政府主導型の資源協定などを設けることは、植物産業分野に参入する企業に対して敷居を高くするだけで、また過剰な期待も開発の妨げとなり企業はこの分野から撤退することがよくある。産業化が進まなければ現金収入の道が閉ざされてしまう。












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